鉄
Iron
📋 クイックサマリー
酸素運搬に必須のミネラル。欠乏(特に女性・持久系アスリートに多い)からの補給は効果絶大。しかし充足者への補給は不要かつ有害リスクあり。
⚠️ 注意点
- • 自己判断での補給は絶対に避け、血液検査で確認してから
- • 鉄過剰は心臓病・肝臓病・糖尿病リスクを高める
- • 男性・閉経後女性は欠乏しにくい
📊 エビデンスマトリクス
| 効果 | エビデンスレベル | 効果の大きさ | 研究数 |
|---|---|---|---|
| 貧血改善・酸素運搬能向上 鉄欠乏性貧血の治療として確立 | Lv.A | 大(欠乏者) | 50件 |
| 持久性パフォーマンス向上 鉄欠乏アスリートへの補給でパフォーマンス回復 | Lv.B | 中程度(欠乏者) | 20件 |
| 認知機能・集中力 鉄欠乏で認知機能低下。補給で改善 | Lv.B | 小〜中程度(欠乏者) | 12件 |
| 充足者へのパフォーマンス向上 鉄が充足している場合の追加補給は効果なく有害なリスク | Lv.D | 効果なし | 5件 |
鉄欠乏性貧血の治療として確立
鉄欠乏アスリートへの補給でパフォーマンス回復
鉄欠乏で認知機能低下。補給で改善
鉄が充足している場合の追加補給は効果なく有害なリスク
概要
鉄は赤血球のヘモグロビン・筋肉のミオグロビンの構成成分として、酸素の運搬・貯蔵に不可欠なミネラルです。
鉄欠乏は世界で最も一般的な栄養素欠乏の一つであり、特に月経のある女性・妊婦・乳幼児・持久系アスリートでリスクが高い。
しかし: 男性・閉経後女性では過剰になりやすく、鉄を補給すべきかどうかは血液検査で確認することが絶対に必要です。
作用メカニズム
鉄は:
- ヘモグロビンの中心金属として酸素を肺から全身の組織へ運搬
- ミオグロビンとして筋肉内に酸素を貯蔵
- 電子伝達系の酵素(チトクロム)の構成成分としてATP産生に関与
- DNA合成に必要なリボヌクレオチドリダクターゼの補酵素
エビデンスの詳細
持久性アスリートへの影響
鉄欠乏(貧血・非貧血性鉄欠乏を含む)は持久性アスリートで多く見られます。補給により最大酸素摂取量(VO₂max)・乳酸閾値・走行経済性が改善することが示されています。
充足者への補給は不要
鉄が充足している場合の追加補給は運動パフォーマンスを向上させないだけでなく、鉄過剰症のリスクがあります。
女性アスリートの鉄欠乏
女性アスリートの20〜50%が鉄欠乏と推定されています。長距離ランナーは溶血(足の衝撃による赤血球破壊)による損失も加わります。
研究の限界点
- 「鉄欠乏」の定義が研究間で異なる(血清フェリチン値のカットオフが様々)
- 補給期間・用量が研究間で不一致
用量・タイミング
重要: 自己判断での鉄補給は推奨しません。必ず血液検査(フェリチン・Hb・TIBC等)で欠乏を確認してから。
- 鉄欠乏性貧血の治療: 100〜200 mg/日の元素鉄(医師の指示)
- 予防的補給(欠乏リスクが高い場合): 18〜27 mg/日
- タイミング: 空腹時(吸収率高)またはビタミンCと同時摂取(吸収促進)。カルシウム・お茶・コーヒーとの同時摂取は避ける(吸収阻害)
ヘム鉄(動物性)vs 非ヘム鉄(植物性):
- ヘム鉄: 吸収率15〜35%(サバ・レバー・赤身肉)
- 非ヘム鉄: 吸収率2〜20%(ほうれん草・豆腐)。ビタミンCと一緒で吸収率向上
安全性・副作用
- 消化器症状: 便秘・悪心・腹痛(特に空腹時の高用量)
- 鉄過剰症: 肝臓・心臓・膵臓への鉄沈着。心疾患・糖尿病・肝硬変リスク増加
- 遺伝性ヘモクロマトーシス: 鉄の過剰吸収が起きる遺伝疾患。鉄補給は禁忌
相互作用
- ビタミンC: 非ヘム鉄の吸収を2〜3倍促進
- カルシウム: 鉄吸収を阻害。時間をずらして摂取
- タンニン(お茶・コーヒー): 非ヘム鉄の吸収を阻害
よくある質問
Q: ほうれん草をたくさん食べれば鉄は摂れますか? A: ほうれん草には非ヘム鉄が含まれますが、吸収率が低い(2〜8%)です。レバー・赤身肉などのヘム鉄源も組み合わせることが効果的です。
Q: 疲れやすいので鉄サプリを飲んでも大丈夫ですか? A: 疲労の原因が鉄欠乏とは限りません。まず医療機関で血液検査(フェリチン値)を受け、欠乏を確認してから補給を検討してください。
参考文献
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- Cogswell ME, et al. (2009). Iron supplement use among women in the United States: science, policy and practice. Journal of Nutrition, 139(2), 401S-407S.
- Zimmermann MB, Hurrell RF. (2007). Nutritional iron deficiency. Lancet, 370(9586), 511-520.